アテネ:路地の街

ピレウスに寄港し、アテネへ。シャトルバスで15分ほど。 ギリシャ語は、読めそうで読めないところがもどかしい。英語と同じようなアルファベットを使っていながら、まったく発音が違うので、読めない。通りの名前も広場の名前も、店の名前も読めない。アラビア文字は初めから読む気にならないが、ギリシャ文字はつい読もうとしてしまう。幸い、英語が併記されていることが多いので、そうめちゃくちゃ困るというわけではないが、レシートなどは後で見てもちんぷんかんぷんだ。何を買ったレシートなのか、日付と時刻、値段から思い出すよりほかない。

ギリシャの古い町並みは、狭い細い路地が集まっている。小さな家が集まっていて、そこここに小さな小さな教会がある。20人くらいが入れるような、一間きりの小さな教会。日本の公民館よりも郵便局よりもずっとたくさんある。歩いていれば、2~3分ごとに教会にぶつかる。日曜ごとにここに人が集まって礼拝をするのなら、きっと町内会のような感覚だろうか。

アクロポリスはかなり高い場所にあって、旧市街のどこからでもアクロポリスが見える。非常に印象的だ。パルテノン神殿は、ピラミッドと同じで、非常に大きい。写真の印象はどうしても小さくなってしまう。実際には一つ一つの石は大きく、空に向けて頑として立ち上がっている。ピラミッドほどの大きさはないが、その精緻な建築技術は、ピラミッドにはない美しさだ。

パルテノン、アゴラ、ヘファイストス神殿、ディオニソス劇場、アテネのどの遺跡を見てもそうだが、古代人たちがこれを築き上げ、ここに集い、話していたのだと思うと不思議な感じがする。2000年後の我々がここにこうしていることを、彼らは知らない。我々の作った建物を、2000年後の人たちはどう見るだろうか。

個人的には、アタロスの柱廊博物館(STOA OF ATTALOS)でオストラコン陶片追放)に使われた陶片を見ることができたのがよかった。紙のない時代の投票券だったわけだ。

ギリシャで印象的だったものの一つが食事。今まで寄港地で食べたどの料理よりも美味しかった。まぁ、旅行中なので、当たりはずれはあるにせよ、ギリシャで食べた料理は2つとも当たりだった。モナスティラキ広場の前の店は特に良かった。入り口はちょっと狭いが、中に入ると有名人の写真だらけの店だった。2人で3皿頼むと、食べ過ぎるくらいボリュームがある。

一方、飲み物は非常にクセが強い。ギリシャ特産の酒ウゾは、ムカムカするような激しい香りがする(松ヤニを使っているらしい)。グリーク・コーヒーはコーヒーの泥のようだ。オリーブオイルやチーズも香りが強いし、ギリシャ人はクセの強い食べ物が好きなのかもしれない。

プラカ地区で木工品を扱っている土産物屋が良かった。たぶん、英国教会やディオニソス劇場の近くだと思うんだけど。中はけっこう広く、チェス盤を始め、さまざまな木工品、木のおもちゃや、ちょっとした金属製のフィギュアなどが並んでいる。これまで見たうちで、最も正しい土産物屋だ。「他にはない品物」が売られている。店内にsolitaire即ち一人遊びのおもちゃがあった。パチンコ大の玉を並べて一定のルールで取り除いていくパズルだ。よだれを垂らして眺めていたら、カミさんが記念に買ってくれた。12ユーロ(約2000円)。

木工品を買うと、イニシャルなどを刻印してくれる。刻印は「何でもオーケー」ということだったので、「2008.04.29 アテネ」としてもらった。店の若者に「アテネの綴りはなんだっけ?」と聞いたら「英語の? ギリシャ語の?」と聞き返された。是非ギリシャ語で、と頼む。ドリルを使って、刻印をしてくれた。わーい。カミさんに感謝感謝。

アテネでは、観光用の列車型バス(『地球の歩き方』では「プチトラン」と呼んでいた)に乗った。外見は列車の形をしている。3台ほどの客車がついていて、観光客を乗せて走るムカデカーだ。我々が乗ったのはローマン・アゴラの前を出発し、アクロポリスの周りを1時間ほどで一周する。観光スポットではギリシャ語、英語、フランス語、etcのアナウンス付き(日本語はなし)。言語と言語の切れ間がないので、ギリシャ語だと思って聞き流していると、いつのまにか英語ガイドが終わっている時がある。一周すればアクロポリス周辺の地形がほぼつかめるので、まずこれに乗るのがオススメ。プラカ地区の狭い狭い路地をこのムカデカーで走っていくその運転技術は、芸術的ですらある。途中で乗ったり降りたりすることもできる。1人1周で5ユーロ。(ちなみに、モナスティラキ広場とアクロポリスの入り口を往復する路線もあるらしい)

最後尾に座っていたんだけれど、カミさんが帽子を落としてしまった。と、後についてきていたバイクのおじさんが「大丈夫」というように片手を上げて、帽子を拾い上げ、速度を上げてムカデ車に併走し、カミさんに帽子を渡し、そのまま速度を上げて走り去っていった。カミさん「映画みたい」と大喜び。「(帽子を落とした)私もヒロインみたいだった」とのこと。この人、帽子を落としたことについて反省がない。