パールな数的優位

無錫の名物、と言えば、真珠。パール。太湖で養殖される淡水パール。真珠の色は、何色だかご存じ? 白? いいえ、それじゃ不十分よ。白黒紫チョコレートゴールド。チョコとゴールドはレアものですの。おほほ。

しかもこの太湖の真珠から作られたクリームを塗れば肌がとってもキレイになる。蘇州美人の美肌を支えるのは、この真珠クリームなのだとか。たしかに地元ガイドのLさんは、45歳には見えない。 Lさんが真珠クリームの功績を称える演説をバスの中で行い、価格の交渉をいかにすべきか、これがいかにお値打ちの値段であるか、教えてくれる。日本で真珠と言えば……ミキモト? ミキモトは敵だ。だって値段が高いだし。あそこで買ったら○○○円もする真珠のネックレスが、ここでは○○○円ですよ。というような話。 店内に入ると、店員たちが行列をなして「いらっしゃいませ」とお出迎え。テーブルを囲む座席に案内され、お茶が出る。 店長が現れて、独学で覚えたという日本語でセールストークを開始。テーブルに美肌クリームを積み上げ、「普段は6個1万円のところ、2つ足して8個で1万円、ほらお値打ちですよ」と言う。そこでガイドのLさんが乱入。「店長。1個とか2個とかの問題じゃないです。このくらいはやってください」と号令、12個のクリームを積み上げる。店長はあきれ顔で「いや困った。でもLさんは観光部長です。私も逆らえない。皆様には特別、12個で1万円でお売りします。さてお買い求めの方?」 なかなかの芝居上手と言いたい。ほんとにLさんが値下げ交渉したのだと思った人もたぶんいたかもしれない。しかしLさんが登場する段になって、店長の脇に控えた店員が、ちゃんとLさんが積み上げる分の4つを紙袋に捧げ持って待っているのだから、どうもLさんもグルだと考えた方が間尺に合うようだ。アイデアマラソン樋口健夫氏も「擬似交渉者」による交渉が有効であると書いている。そのおかげかどうか、ツアーの中で2~3人はこれを買った。 なんというか、この一件で地元の結束の堅さを感じた。ガイドさんも真珠店も、地元の開発・振興に関しては一致団結しているのだ。ある意味、情報の取捨選択が難しくて怖い。ガイドの言うことを鵜呑みに出来ない瞬間だ。私などは、こういうカラクリが見えた瞬間、購買意欲が下がるのだが。いや、まぁ、最初から真珠とか買うつもりないけどさ……。 次に店長は、真珠貝(カラスガイ)を持ってきた。この中にいくつ真珠が入っているか、クイズをしようという。選択肢は8~40のどれかだ。開けてみるまで、店長自身にも答えはわからない。 ツアー客全員に一通り訊いた後「25以下の方には、残念ながら見込みがありません」と宣言。それほど多い。 20091129_122333_0.JPG開けてみると、あるわあるわ、34個も入っていた。正解はいなかったが、一番近かった人(33個)の老人には、真珠のピアスをプレゼント。奥様に渡していたみたい。まぁ、奥様にもピアスの穴はなさそうだったが。 無錫では、こうして1つの真珠貝からたくさんの真珠をとるので、その分価格が安いのだろう。とはいえ、あんなに異物を中に入れられたら、真珠貝の方も大変だなぁ。 その後、店長はネックレス売り場に移動。店長は真珠クリームが3セットしか売れなかったことに大変がっかりした様子で、「さて今日みなさんがとてもたくさん真珠クリームを買ってくださったので、私はとても嬉しい」と哀しそうにつぶやいた後、「お礼にこのネックレスを○つで○○○円にしましょう」と宣言して、解散にした。たしか、短めのネックレス一個当たり1000円少しだったのじゃないかと思う。 店内自由行動。店内の売り場を自由に見て歩く。といってもそう広い売り場ではないのだが、店員は歩合制なのか、超必死の売り込みをかけてくる。人数も多い。優にこちらの2倍はいるし、マンツーマンでマークし、数的優位を活かして売り込んでくる。担当も関係ないらしく、入れ替わり立ち替わやってくる。こちらの要求を聞き出し、それに応えられる場合はもちん、応えられない場合でさえ、別商品の売り込みを諦めない。ことにニコニコバッジをつけている店員はおそらくなんらかの評価を勝ち得た人間であるらしく、不屈の精神で売り込みを続ける。逃げ場なし。私のように売り場に慣れていない人間は、ちょっと疲れるね。 この後、バスに戻ったところで現地ガイドLさんとお別れ。現地ガイドは数が少ないらしく、かけもちであちこちのツアーを飛び回って仕事しているのだという。 どうも、現地ガイドというよりは、現地観光局の人間だと考えた方がよさそうだ。たしかに日本語は上手だったけど。