金曜大工のトリビア脳

研修15日目。3週間におよぶ研修期間が今日で終わり。最後の今日は「Kくんの方で手が足りないそうなので、手伝ってあげてください」とのこと。 一緒に1階の現場に向かいながらKさんがいたずらっぽい笑みを浮かべて私に尋ねる。「新保さんは日曜大工とか得意ですか」「いや、あんまやったことないですね。」「鋸(ノコギリ)とか」「あんまり使ったことないなぁ」 というわけで今日の作業は「日曜大工」。現場で使う、台のようなものを製作する。基本の設計はK氏がやってあり、材料はDoitで買ってあり、板には既に線が引かれており、「この線に沿って切って欲しいんですよ」と笑顔で片刃の鋸を渡される。「頼みたいことってコレなので、新保さんが日曜大工無理、って言うんだったら『しゅーりょ~』ってことなんですけど」と笑顔で言われたら、やらないわけにはいかない。 以前、鋸を使ったのは、あれはいつのことだっただろうか。うまく扱えず、危うく鋸を折ってしまいそうになったのを覚えている。その記憶があるので、あまり鋸に自信はない。 が、同時にその時に兄貴に言われた言葉がトリビア脳に残っていた。「鋸は引く時に切れるんだよ」それに続けて、他にもトリビア脳から記憶が出てきた。鋸には2種類の刃が付いていて、引く時と押す時で使う刃が違っていて、その隙間から木くずが排出されるようになっていて……。引く時と押す時で角度を変え、動かしやすい角度を探る。また、同時に刃の向きと板に引かれた線がズレないように視野を広く保ち、右手の動きをまっすぐにして引き続ける。あ、切れた。 K氏がやってきて「どうすか」とにこにこ尋ねる。「なんとか切れました」と言うと、板の切断面を確認。「けっこう切れてるじゃないですか」 6枚の板を切り出した後は「台に触れた人が怪我をしないように」紙ヤスリをかける作業。これまたトリビア脳がささやいた。「動きを大きく、端から端まで往復すること。一部だけにやすりをかけ過ぎるとムラになってしまう」。ズボンを木くずだらけにしながらピカピカに磨き上げる。 お、トリビア脳があれば、なんとかなるじゃないの、日曜大工。成功体験によって若干自信が高まったのであった。 それにしても、K氏の木工作業の手際の良さには感銘を受けた。さすが技術系。設計もさることながら、材料を選定して購入してきて、線を引き、私が切った板にさっさと電動ドリルで穴を開け(たぶん、午後から私が作業に入れるよう、昼休みに準備しておいてくれた)、難しい作業は自分でやり、「これとこれをこう組んでこうやってください」と的確な指示を出す。終わったら「すごく助かりました。ありがとうございました」とお礼を言ってくれる。流石だ。 3階のデスクではいつも疲れた顔をしているけれど、現場ではいつもにこにこと笑顔で作業している。この人は現場で輝く人なんだなぁ。 もう一個、職場ネタ。S課長はご老体の発明家で、会話のリズムが老人特有のマイペースな感じに仕上がっている。私の後ろの席で、「弱っちゃうなこりゃ」と軽くボヤいているのがよく背後から聞こえてくる。 今日、中国の部品供給先とのやりとりに問題があったらしく、後ろでS課長とY氏がしゃべっているのが背後から聞こえた。 S課長「中国語が書ければいいんだがなぁ。話せなくていいから書ければ(指示が出せるのに)」 Y氏「パソコンに翻訳ソフトとかありますよ」 S課長「これ(パソコンを示しながら)で?」 Y氏「はい。Kさんとかも時々それ使って連絡してますよ」 S課長「そうかい、これでできんのか。そういう手があるのか(S課長は老人の例に漏れずPCに疎い) じゃああれかい、中国語を日本語にすることもできんのかい」 Y氏「できますよ」 S課長「へー、じゃ日本語を中国語にして、その中国語を日本語に戻したらどうなんの。元の日本語が出てくんのかね。元と違っちゃったりしてさ」 私はちょっとびっくりした。S課長はつまり、翻訳ソフトの信頼性について検証しているのだ。翻訳ソフトの可逆性というか、線形性というか、そういうようなことについて話しているのだ。 さすが技術屋、検証魂。分野が違っても、やはり基礎概念はしっかり把握している。抜けてるようでいて、侮れないなぁ。

■一年前の日記 2007年09月05日 Solitaire's DiaryBBS: 流石銀行