下を向いて歩こう!/首つり指南

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脳天気に「上を向いて歩こう」とか言われたって、そうできない人だっているんだぞ! という話。

といっても別に心に傷を負って前向きになれないという話ではない。椎間板ヘルニアの話である。

最近どうも肩こりだのあれこれ酷いので、これは霊障に違いあるまい!と思って整形外科へ行ってみたら、頸椎の椎間板ヘルニアという診断を受けた。「ヘルニア」を訳すと地獄の一丁目であるから、霊障、当たらずといえども遠からずだ。

この整形外科、待合の廊下の、私が座ったスツールの真正面に「当病院は個人情報の保護を尊重します」という張り紙が貼ってあり、いかにしてそれを遵守するかが書かれているのだが、それを読んでいるうちに、その張り紙の壁の向こうで大きな声の医師が大きな声のおばあさんを説得しているやりとりが克明に伝わってきて、まぁパーティションがあまりにも薄いので、この個人情報の保護というやつは努力目標なのだな、と思い知らせてくれる。

大きな声の医師によれば私の首はストレートネックというやつで、通常綺麗なアーチを描く頸椎の7つの骨がまっすぐ上に向かってのびており、骨同士の間隔が不整合になっている。おかげで神経が圧迫されて、右の肩だの肩甲骨だのに痺れをもたらすのだという。

医師が私に伝えた助言は二つ。一つは「首を冷やすな」である。これは首の筋肉の緊張がヘルニアに悪影響を及ぼすようで、温かくして緩めてやるのが肝要とのこと。パソコンの前でずっと同じ姿勢でいるのもよろしくないので、時々ほぐしてやる必要がある。

もう一つは「上を見るな」である。上を向く動作が頸椎のヘルニアには悪影響を及ぼすことが多く、私もご多分に漏れず、上を見ない方がいいらしい。これからは上を見ないでうつむいて生きる。もとよりそのつもりである。

ちなみにWikipediaによれば、軽微なヘルニアは8週間程度で治まることもあるようで、それで「症状はいつから」「8月頃です」と答えると医師が一様に顔をしかめる理由がわかった。慢性的だということらしい。

週に2~3回、リハビリに通い、首を吊る。比喩ではなく本当に吊る。これは牽引という治療であって、美人の看護師さんがやって来て、ご親切に、あなたが首を吊るのを手伝ってくれる。唯一の救いは彼らに悪意がなく、気管をつぶさないようあごの骨と後頭部をひっかけて、丁寧に5kgの力で(引っ張られているかわからない程度)上に引っ張ってくれるということだ。なんだか原始的なようだが、これで頸椎の継ぎ目が緩んで、改善するのだという。

もう一つレーザー治療というのがあってなかなか穏やかなぬ名前だが、首の前後に発信器らしきものをあててしばらくするとぽかぽかと暖かくなる。私の邪推ではこれは電子レンジの原理ではあるまいかと思うのだが、なまじ電磁波とか電子レンジとか言うと、「猫を乾かすために電子レンジに入れた事例」だの「電磁波が脳に及ぼす影響」だのを引用して大騒ぎを始める阿呆な患者が多いのでレーザー治療と称しているのではあるまいか。いずれにせよぽかぽかして良い気持ちである。

そういうわけで私が室内でマフラーをしていたり、珍妙なネックウォーマーをしていたら「ああ、あいつはファッションセンスが無いんだな」と思って納得して頂きたい。その方が、治療が終わった時に気が楽というものだ。