ハリファクス:神様のお気に入り

ダブリンから大西洋を渡って、アメリカ大陸へ。大洋はかなり揺れると恐れられていたが、意外なほどに波は少なく、タイタニック沈没地点の南45kmの地点を通過し、無事カナダはハリファクスへとたどり着いた。

我々を出迎えてくれたのが、微妙なキャラクター顔のタグボート。「きかんしゃトーマス」の顔をタグボートにくっつけたのだと思えば良い。入港作業にあんなタグボートを使うとは、カナダはなんとふざけた国だ、と思ったら、そのタグボートはまったく我々を無視して通り過ぎていった。ただの通りすがりだったらしい。そりゃそうだよな。いくらなんでも。

我々が到着したPier(波止場)にはちょっとしたショッピングセンターと、ツーリストインフォメーションがあった。インフォメーションでタイタニック沈没の犠牲者が埋葬されているフェアビュー墓地への行き方を尋ねる。バス停の名前ではなく「この通りとこの通りの交差するところ」という言い方をされて面食らう。後でわかったことだが、この街ではバス停に名前がない。そのため、通りの名前で判断するしかないのだ。バス代は2ドル。「アメリカドルでも良いか?」との質問には「問題なし」とのこと。

文具店について尋ねたところ、わざわざ電話帳で調べてくれて、オススメの店を教えてくれた。

カナダ人は、全般に親切だ。この後もずっと、カナダ人は常に親切にしてくれた。それは間違いない。

波止場からバス通りまで歩きながら、カミさんにお気に入りのカナダ・ジョークを話した。

神様が天使に自慢する。「どうだ、この新しい国は素晴らしいぞ。名前はカナダという。人心は穏やかで親切で気持ちいい。美しく雄大な自然に恵まれ、気候もいい。資源も産業も農作物も豊かにある。我ながら実にいい出来だ」
天使はその国を見て感嘆したように言う。「なるほど、たしかに素晴らしい国ですね」
天使はそれから首をかしげてご注進に及ぶ。「しかし神様、カナダばかりそんなに贔屓してよろしいのですか。他の国の人間たちが見たら、あまりに不公平だと思わないでしょうか」
神様はその提案について考える。「なるほど、お前の言うことももっともだ。少しはカナダにも欠点があった方がいい。では、カナダはアメリカの隣に置くことにしよう」

……カナダは本当に素晴らしい国であるにもかかわらず、アメリカの隣にあることだけが欠点だというジョーク。ちなみに「カナダ」を「日本」、「アメリカ」を「朝鮮半島」に置き換えるバージョンもある。

話しながら、『赤毛のアン』作者モンゴメリが住んだという下宿の辺りを通過する。どれがその物件だか、はっきりしない。が、たぶん前を通過したのはたしかだ。

通りを走る車や駐車場に置いてある車を見ていると、ナンバープレートが、あったりなかったりする。どういう交通法規なのか、気になる。

バス停の表示は小さくて、旅人はうっかりしていると見過ごしてしまいそう。街灯などにバスのイラストと数字が並んでいる。数字は路線番号だ。時刻表などはない。9番のバスがなかなか来ないので、ちょっと不安。

待ち時間にタバコ屋でポテトチップを購入。若干表示と金額がズレる。USドルで払ったせいだろう、と思ったが、どうも税金のせいもあるようだ。外税表示らしい。

タバコ屋の隣は和食「桃屋」。ランチのセットメニューが張り出されている。しかしセットに「アボガドロール×6」とか「クカンバーロール6」が含まれている辺り、なんかちょっと違う気がす。魚はないのか魚は。

やっと9番のバスが来た。支払いはUSドルでもOK。普通にUSドル紙幣が飲み込まれていく。すごいな。他国の通貨丸呑みかよ。バスを降りる合図はボタンだったり、窓辺に張られた紐(引っ張ると紐の先の壁の中にあるスイッチが引かれる)だったりする。この紐システム、日本ではいっこうに見かけないが、けっこういいかもしれない。忍者が使う鳴子みたいな感じだ。憧れの先輩と同時に手を伸ばせば紐を介して……みたいな少女小説が、カナダにあるかどうかは知らない。

フェアビュー墓地へ行きたいと運転手に伝えたら、ちゃんと下車する場所を教えてくれた。親切。

フェアビュー墓地へ到着。タイタニック死者の埋葬地には、ご丁寧に解説看板まで付いていた。

沈没後、4隻で捜索して発見された遺体がここに埋葬されている。船の形を模して、流線型に墓石が配置されている。行方不明者の場合も、沈没日=死亡日として刻まれている。というのも、事故の際の水温からいって、24時間以上生き延びた生存者がいたとは思えないので。身元がわからなかった遺体は、無名の墓となっている。全ての墓石に番号がふられており、これは遺体捜索時の通し番号。事故からほぼ1ヶ月かけて、300名くらいまでの遺体が発見された。

遺体には女性の割合が非常に少ない。というのも、救命ボートの原則「女、子どもが先」というのが実践された結果だという。

ちょうどやってきた9番のバスに乗って街へ戻る。走ったら運転手が待っていてくれた。親切。

ハリファクスの街の象徴、オールド・クロックの脇を通り抜ける。なんとなく札幌の時計台を彷彿とさせる造りだ。この時計は急斜面に設置されていて、この斜面を登るとハリファクス・シタデルという要塞がある。ほぼ観光地化されていてあちこち観光客が闊歩しているが、中にいるのはカナダ軍なのだろうか、そこかしこで軍事教練的なことをやっている。

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砦の塀の上に上がってみたら、砲兵(Gun Officer)が訓練の真っ最中。空砲を鳴らす「Noon gun celemony」の練習らしい。観光客が見守る中、4~5人の砲兵(女性含む)が走り回り、2~3人の上官がしきりに声を張り上げている。後でわかったことだが、実際の空砲発射の際には耳栓をしているために、声を張り上げる必要があるようだ。また、上官の一人はストップウォッチで時間を計っている。これは12時の定刻に間に合わせるため。時間にはシビアでなければならない。

訓練はかなりしごきに近いものがある。砲兵は走り回り、常に急かされ、最速が求められ、手の位置、作業道具の扱い、立ち位置など細かい点まで見られる(これがまた、細かいトコまでよく見ているのだ)。ミスをすると即座に上官から指摘が飛び、砲兵は「Yes, sir!」と大声で返事をしなければならない。とはいえ、時々「よし、よくやった」「うまいぞ」など誉めている部分もある。理不尽というわけではないようだ。

11時45分、空砲の準備が始まる。先ほどの砲兵たちが列になってやってきて(耳栓をしている)、きびきびと最速で大砲をセットし、スタンバイする。上官はあちこち見渡し、塀の上に乗らないよう、見物客に注意している。音に驚いて落ちたりしないように?

30秒前!の警告で観光客もみんな耳をふさぐ。

ドカン! デカイ音だったらしいが、耳をしっかりふさいでいたので、どのくらい大きいんだかわからんかった。ちぇっ、やりすぎたぜ。

その後、観光客がつめかけ、砲兵たちと一緒に写真撮影したりしている。我々ももちろん、撮影。一仕事終えた砲兵さんたちは、ほっとした表情でカメラにポーズを撮り、客サービスにつとめていた。

この後、中庭ではバグパイプ演奏も行われ、バグパイプのこと、キルト衣装についてなど、英語で簡単な説明をしてくれる。戦闘中は突撃の合図などに楽器が使われたため、バグパイプ演奏者は非常に重要な役割を持っていたとのこと。そうか昔の戦闘では、楽器が伝達の道具だったんだものな。

中央の建物にはギフトショップがある。バグパイプのイラスト付きの付箋紙が面白かった。書かれている文字は「PIPING IS LIFE! The Rest Doesn't Matter.(パイプ吹くのが人生そのもの。あとは大したことじゃない)」 それとは別に、パイパーのピンバッジを購入。

また、2階にはアーミー・ミュージアムもある。近代の武器などがたくさん展示されている。しかも撮影可能。高射砲とかマシンガンとか、間近で見たい人は必見。

さて、レストランを探して歩く。ガイドブックに乗っていた店を当たってみることにする。道で何かフリーペーパーを配っている男女とすれ違い、「ハリファクスはどう?」と声をかけられる。「素晴らしい!」と答え、ついでにオススメのレストランを尋ねる。「今すぐ(ここから行ける場所で)?」「そう」と答えると「オーケー、僕のオススメの店がちょうど近くにあるよ」と親切に地図に書いてくれた。「Tom's Little Havana」というお店らしい。お礼を言って歩く。

外観はちょっと地味なお店で、イタリアン、アジアンなどが主なメニュー。美人のお姉さんにチキンのペンネ、今日のスープ(豆)、ピザを注文する。料理を持ってきた後、お姉さんが腕ほどもある大きなペッパーミルを持ってきた。

お姉さん「どうする?かける?」
もが「よくわからない。あなただったらどうする?」
お姉さん「私は全部にかけるけれど」
もが「じゃ、それで」

美味しい。このお姉さんも親切に話をしてくれた。

もが「道ばたでオススメを尋ねたら、ここだと言われたんだ」
お姉さん「じゃ、その人にチップをあげなくちゃね」

辺りを散策。お店をのぞいたりしながら歩く。地元の大学の門前町を通過。昔懐かしいホビーショップ。なんと。タミヤとかある。カミさんが店の老人に「イヤリングのパーツは?」と尋ねると「ここにはないよ。でも1ブロック先にあるBeads Podという店ならあるかもしれない」と教えてくれる。親切。

「Beads Pod」は手作りアクセサリーのパーツショップだった。カミさんはイヤリングのパーツを購入。これまでの寄港地でかわいいピアスなどを見つけてイヤリングに付け替えたいと思っていたとのこと。もっとも、この後の寄港地ではピアスなどあまり見なかったので、ここで買ったパーツは結局使わなかったと思うけれど。

この後、あちこちショッピングモールなどを見て歩く。ツーリストインフォで教わった文具屋が閉店していたり(女主人が引退してしまったとのこと)という残念もあったけれど、スコシア・スクウェア、ヒストリック・プロパティズのようなショッピングモールを眺めて満足。1ドルでいろんな雑貨が買える「1ドルショップ」もあった。ダイソーとどっちが先だかわかんないけど。

同じ船で来たご夫婦と街でばったり遭遇。曰く、

男性「今この街はバーゲン中みたいですから、ご主人、(買わされないように)注意して」
女性「(カミさんに)負けちゃダメよ」

笑ってそこで別れた。

もが「でもあなた、あんまり物欲ないもんね」
カミさん「もがみさんの方が買うよね」

そう、我々夫婦の場合、物欲が強いのはむしろ私の方なのだ。

お気に入りのTシャツに書かれているのは「I shop therefore I am」即ち「我購買す、故に我有り」

フェリー乗り場を歩いていたら、今朝見たきかんしゃトーマスタグボートに遭遇した。『Theodore Tugboat』という名前らしい。ハリファクスで製作された、テレビ番組のキャラなんだって。

Theodore Tugboat - Wikipedia, the free encyclopedia