オンフルール:ムール貝の町

オンフルール港

オンフルール停泊2日目。本当はルーアンの街へ行って、大聖堂を見る予定だった。ルーアンの大聖堂は有名だし、初日に訪れた人の評判も良かった。しかしながら、時刻表を手に入れて検討した結果、どうやってもルーアンには1時間しかいられないと判明した。田舎町の交通を甘く見た報いである。そういうわけでルーアンは諦め、オンフルールの街を散策することにした。

カルーセル

オンフルールはフランス北部の小さな港町で、ヨットハーバーがあり、こぢんまりとしたかわいい街が広がっている。穏やかで品のいい街だ。街の中心はヨットハーバーであり、その脇には古めかしいカルーセルが動いている。ここで我々は一日歩いて散策した。ゆったりしていいところだ。街のはずれにはキャンプ場があり、キャンピングカーで訪れるフランス人たちが大勢いるのが見て取れる。

ヨットハーバー

朝からあちこち歩き回って、まだオープン前の商店街などを眺める。教会がある広場の野菜市場を眺めるもをかし。

DSC01323 少し歩くうちに、スーパーマーケットを発見した。中には船のクルーやお客さんが大勢いる。みな生活用品を買ったり、土地の品物をお土産に買ったりしている。カミさんは、ゲランデのロバ皮姫の話が気に入ったのか、塩を買うと言い出した。モン・サン・ミッシェルでは非常に高価だったゲランデの塩は、ここではもう少し安く買えるようだ。とはいえ、やはり高級品には違いないが。そのほかに、普通の塩のパックも買うと言い出した。パッケージのイラストが『星の王子様』風でかわいく、フランスらしく、お土産にいいというのである。なるほど、そうかもしれない。そこで我々は塩を少々買い込んだ。

ところが、そのことを別のお客さんに話したところ「それはいい」と賛同者が続いた。まもなく、そのスーパーの棚から、家庭用サイズの塩がなくなった(さすがに業務用サイズに手を出す人はいなかったらしい)。

もしもフランス北部で「日本人の客船が塩を買い占めに来た」「日本人は塩を見たことがないらしい」「日本では塩は同じ重さの砂金と取引される」という説が広がったら、それはたぶん私たちの責任である。

さてカミさんと二人、食事をする場所を探してうろうろと歩いたが、さしたる名案もなく、ヨットハーバー脇のカフェレストランに落ち着いた。この街は港町の例に漏れず、魚介類、特にムール貝が人気だ。オープンエアなテラス席の客が食べているものをそれとなく観察すると、黒い鍋にいっぱいのムール貝を豪快に食べているのが伺える。カミさんがこれに食いついた。「アレが食べたい」 何かというと人真似をしたがるカミさんである。

私はどうかというと、そういう発想はあまりなくて、問題なく食事を終わらせるというのが海外旅行の主要なテーマだ。じゃ、この黒板に書かれた「本日のランチ」みたいなヤツにしよう。これなら、大きなハズレはあるまいし。メニューの文字は流暢な筆記体で、ろくすっぽ読めなかったが、適当に「アレ」と指さした。店員も「ああ、アレ」といった感じで了承した。こっちかこっち、どっちか選べと言われたので「あ、そのメニューの上の方」と当てずっぽうに指定したところ、店員がなぜか妙な顔をして「ホントにいいのか」と確認した。はて、ランチメニューのオプションに、当たりはずれがあるのだろうか。食えないランチがあるものか。

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カミさんの黒い鍋がまず到着し、それから私のランチのオプションが到着した。黒い鍋にいっぱいのムール貝と、皿に山盛りのムール貝

……うむ。そうか。あのオプションは、ムール貝だったのか。もしもフランス北部で「日本人の客船がムール貝を買い占めに来た」「日本人はムール貝を見たことがないらしい」「日本ではムール貝は同じ重さの砂金と取引される」という説が広がったら、それはたぶん私たちの責任である。いや、でも全部食べましたよ。

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セーヌ河口を遊覧する船に乗って、ロック(閘門)による水位変化を初体験したり、河口付近の大きなノルマンディー橋(一時期は世界一を誇った)を見たりという、港町らしい遊びをして、散策を終えた。小さい街の割には、十分楽しい一日だった。

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