町田康『浄土』

カミさんがWritingRoomから借りてきた、町田康『浄土』をぱらっと読 む。とりあえず2編だけ。 ◆「ギャオスの話」 ギャオスというのは、なんとも懐かしいというか……いや別にリアルタ イムでギャオスを見ていたわけではないのだが。 ジャクスタポジション(併置)と呼ばれるような構成で、複数の人物、 固有名詞を散りばめ、叙事詩というか記録風の感じを出しているのが面 白い。淡々とした語り口は、どこか往年の怪獣映画のような雰囲気もあ る。 ここで語られている「ギャオス」とはいったい何なのか。「カメラを向 けられるとポーズをとらずにはいられない生物」とは、ヒトそのもので はないのか。ギャオスある限り、我々は幸福になれないのかもしれな い。 ◆「犬死」 呼んでいて一番不可解というか、気になった点は「私」に起きた「致命 的に面白くないこと」とは何だったのか。それについては(意図的に) 記述がない。 他にも不可解な、説明のない点が多い。なぜ彼は黒服の男を乱打せねば ならなかったのか。なぜマンションの場所は間違っていたのか。なぜ 「ジョアンナ先生」の性別が食い違っていたのか。「膝が逆の女子高 生」とは何だったのか。 物語の中では主人公は死んでいないにも関わらず、「犬死」というタイ トル。全体に都市伝説のような雰囲気を持ち、どことなく不気味な悪 寒、主人公の「犬死」を予感させる。そこがこの作品の妙味かな、とい う気がする。