ホニングスヴォーグ&ノールカップ:凍った大地

20080526_094330.jpgかつて北極探検のための最後の補給基地だったというホニングスヴォーグ。今回のクルーズの寄港地としてここに来ているのは、ノールカップがあるからだ。ヨーロッパ最北の岬ノールカップ。厳密にはノールカップよりわずかに北に伸びている岬もあるのだそうだが、道路が続いているのはノールカップなので、一応ここが最北の地ということになっているらしい。 ちなみに「ノールカップ」というのは、かなり適当な名前だ。英語風に直せばNorth Cape即ち「北岬」で、それ以上のものではない。もともと地元でそう呼ばれていただけの、何もない場所だったのだろうけれど、今ではいっぱしの観光地として、物好きの観光客が訪れるようになっている。 ちなみに、帰国してから知ったのだが、かつてこの地は「ラップランド」と呼ばれていた。蔑称であるため、現在では使われなくなっているが、そう、NHKアニメ『ニルスの不思議な旅』で主人公ニルスの乗った渡り鳥たちが目指すのがこの極北の土地なのだ。 この日は小雨で始まった。当地では天気が変わりやすいのだそうだ。少し前には非常な大雪が降ったらしく、その名残雪が残っていた。この日は比較的穏やかな天気ということだったが、その後も天気はちょこちょこ変化し、降ったりやんだりを繰り返していた。ちなみにこれ、5月下旬で初夏ですからね。お間違えなく。 オプショナルツアーのノールカップ半日観光へ。 この辺りに日本語ガイドはいないのだが、観光産業保護政策でもあるのか、バスに免状持ちのガイドを乗せる必要があるらしく、我々のバスにも一人、英語ガイドが乗ってきた。若いひっつめ髪のにーちゃんでC氏。走るバスの中、一生懸命英語で説明をしていたがイマイチ観客の反応がない。不審に思ったのか「ところで英語が分かる人は何人いますか」と彼が尋ねて、手を挙げたのは40人ほどもいるバスの中で3人だけ。さしもの彼もやる気を失い、「じゃあ現地に到着したら、3人には説明します」と告げて解説をやめてしまった。まぁ彼の気持ちもわからんではない。 私はC氏の英語解説を必死で聞き取り、船のツアースタッフであるK嬢(←英語が苦手)の日本語解説も合わせて情報を得た。 この土地には遊牧民であるサーメが住んでいる。彼らは15000年前頃からこの辺りにいたらしい。サーメ語はアジア系らしく、フィン語やハンガリー語との類縁関係があるとされている。また、彼らのテントは北米のネイティブアメリカンのテント「ティピ」と似た円錐形をしているので、そこに何らかの繋がりを示唆する向きもある。 今日では7000人ほど残っているサーメ人自治権を持ち、自分たちの旗なども持っている。ノルウェースウェーデンからフィンランドにかけて国境をまたぐ形で生活しており、その半数くらいがノルウェーに住んでいる。トナカイの遊牧が主な生活資源だという。 バスが走っていくのは雪原の中の道路、E69号線。ヨーロピアンハイウェイと呼ばれるいわば「ヨーロッパの国道」的な位置づけだ。「年間通じて通行できること」が条件というこの道は、冬場は片側通行になってしまうらしいけれど、それでも「通行可能」には違いない。 樹木の生育限界を超えているので、木がまったくない。ただ雪の積もった平原が広がっている。
20080526_093011.jpgバスは15分ほど走って、サーメ人のトナカイの放牧地に到着。土産物屋の横に立っている老人が一人。もさもさと餌を食っているトナカイ1匹だけ。……なんじゃこりゃ。放牧地っていうのかコレ。 英語ガイドに「……他のトナカイは?」と聞くと「これがトナカイのボスで、他は散らばっている。後で撮影できるから大丈夫」とのこと。しかし結局、ほとんど野生に近い状態で飼われているので遭遇できるかどうかは運任せだったみたい。なんとか路上でトナカイを見られたけれど、適当だなぁ。 土産物屋ではサーメの民族衣装を着た老婆が二人、店番をしていた。「クレジットカード? OKOK」嗚呼観光地。まぁこんなものか。 バスはまた少し雪原を走って、ノールカップにあるノールカップホールに到着。富士山頂レーダーみたいな丸いドーム屋根が見える。 ホールの中は割と広々としていて、土産物屋、トイレ、郵便局などがある。ホールを通り抜けて外に出ると、そこが陸地の北の果てだった。
20080526_100133.jpg岬の突端に、地球儀を模したような、大きなモニュメントが立っている。北の方角を英語ガイドに尋ねてみた。彼は出番を待っていたのか、喜々として教えてくれた。「あっちが北極。でも、北極と磁極はズレてるんだ。だから磁極だったらこっちの方だ」彼が指さした方角は、40~50度ほどもズレていた。それだけ、極点に近いということか。 もちろん、北極に一番近いところまで行って撮影したり、海の向こうの北極に思いをはせたりとかした。
20080526_103423.jpg天候はたいへん不安定。雪が降ったりあがったりを繰り返している。雪はさらさらのパウダースノー。黒い服についた雪を観察してみたら、針のような形をした結晶で、六角形にはなっていなかった。
20080526_101504.jpgここノールカップから郵便を投函すると専用の消印が付いてくる、ということで、家族や親しい友人に向けて封書を用意してきてあった。ところが、到着した時刻が早すぎるのか、郵便局が開いていない。はがきだったら値段がわかるのだが、封書だと重さによって値段が変わってしまう。レジのお姉さんに尋ねたところ、親切にお姉さんが郵便局ブースを開けて計りを取り出し、重さを量ってくれた。封書1つ18ユーロ(およそ2880円)との判定。1通につき、9ユーロ切手を2枚購入する。4通も送った。考えてみるとけっこうな出費だ。 この頃になると、周囲の老人たちにだんだんツアコン扱いされ始めた。「エアメール、ジャパンのつづりってこれでいいかしら」「今トイレ行っていいわよね」 ……いや、知りませんが(苦笑)
20080526_105846.jpgここには「地球のこどもたち」という名のモニュメントがある。世界7カ国の子どもが共同で作ったということになっている。おそらく、子どもに絵を描かせて、それを大きな(直径1.5メートルほどの)円盤に刻印したもの。 日本もその7カ国の一つになっており「あゆみちゃん」の作品が使われていた。女の子の顔(たぶん自画像)の上に「あゆみ」と書かれている。なんでそこに名前を書いちゃうんだろうか。日本の子どもだけだろうか。それともどの国の子どもも書くのだろうか。 帰りのバスでは気のいい日本人ガイドのK氏が乗ってきて、マイクでいろんな話を聞かせてくれた。 積雪について。ノルウェー道路交通法の厳しさについて。不凍海について。免許取得に「スピン」という訓練があることについて。白夜とオーロラについて。トナカイの毛皮について。ノルウェー人が必ずマイ寝袋を持っていることについて。ヨーロッパ最北のビーチについて。なんてよく勉強している人だ。 ホニングスヴォーグに戻り、バスを降りて散策。ちいさな村だが、家はけっこうたくさんある。
20080526_133306.jpg村の目の前にそびえる山に登ってみた。雪で道が閉ざされているところもあるが、なんとか上る。村を見下ろす場所に、海に向かって女性の胸像が建っていた。あれが何の像でなぜあそこにあるのか、まったくわからない。 船のフィリピン人のクルーたちが雪山に登り、大はしゃぎしていた。彼らの国には雪はたぶんないだろう。