ヴァレッタ@マルタ共和国メモ:時間のない街

ヴァレッタという地名、マルタ共和国という国名は、これまで聞いたこ とがなかった。イタリアの南にある小さな島国。Heart of Mediterraneanというキャッチフレーズは、日本語訳では「地中海のへ そ」になってしまっているらしく、いまいちロマンチックな感じになら ない。もうちょっとマシな訳語はないものか。「地中海の心臓」ではち ょっと生々し過ぎるし、「地中海の心」では大げさすぎる。「地中海の 中心」というのも、どうもマルタ共和国が地中海を動かしているよう で、具合が悪い。「地中海の中央」では地理の勉強をしているみたい だ。「さして重要というわけではないが、地理的には中央」というのを 表すいい単語はないものか。「地中海の真ん中」だろうか。できれば 「Heart」と同じような、比喩的な香りを残したいが。

ヴァレッタの入港はとてもいいですから、ぜひご覧になってくださ い」と教えてくれたのはキャビンマネージャー。寝坊をしつつも、なん とか入港の最後の辺りを眺めることができた。海にそびえ立つ旧市街は 大変に見事。もともとここは海に面した要塞で、城壁も高くがっしりし ている。うす茶色の石造りで、まこと中世の香りが色濃い。町並みを見 ると、まるで時が止まってしまったかのようだ。

市内に入って城壁の中を散歩すると、石垣の向こうに海が見えて気持ち よく散歩できる。ただし、崖の石垣には「フレディ・シモンズ 10歳に してここで転落死」と刻まれていたりするから要注意。石垣に登って遊 んでいたらしい。子供から目を離さないこと……たとえそれが自分のカ ミさんだったとしても、石垣に登るような子供からは、目を離さないこ と。

「青の洞窟」はミラノにあるのが有名だが、ここマルタ共和国にもあ る。ヴァレッタからバスで40~50分ほどの場所にある。

田舎町で何が不安といって、交通機関ほど不安なものはない。いつ来る か、今来るか、よそ者にはまったく見当が付かない物だから。ヴァレッ タ市街地から青の洞窟へのバスの発車時刻は、ツーリストインフォメー ションに訊けばわかる。しかしながら、ヴァレッタ市街地へ戻る方のバ スについては、訊くのを忘れていた。

青の洞窟(キレイだった)からタクシーでハジャーイム神殿へ。ハジャ ーイム神殿を見終わって(退屈だった)、さて市街地に戻ろうとバス停 に行くと、そこには10人ほどの観光客が、ぼんやりと座っていた。バス 停はコンクリートの打ちっ放しで、時刻表も路線図もない。先頭にいる 白人系の家族に尋ねると、もう40分、あてもなくバスを待っているとい う。我々もその列の最後に並んだ。

ぼんやり座ってバスを待ちながら、20分離れたタクシー乗り場まで歩く べきか、迷いに迷った。何せ、判断の基準となる情報が何もないのだ。 結局、20分後にバスが来たので、我々は運が良かったと言える。後で他 のクルーズ客に訊いたら、バスを待つのに1時間かかったという人もたく さんいたようだ。

ここは本当に時間が止まったような場所だ。でも、バスまで止まってし まうのは、観光客にとっては困りものである。

我々の入港前夜、マルタ共和国がイギリスから独立した後、初代大統領 となった人物が亡くなったそうだ。国葬が行われるとのことで、騎士団 長の館(議事堂)や大聖堂など、観光スポットにも影響が出る。騎士団 長の館は結局見学できなかったのだが、代わりに海外の国葬という珍し い場面に立ち会えたのだから、珍しい経験というべきか。大勢の兵士が 列をなし、棺が大聖堂から運び出される様子は、厳粛ながらも興味深か った。