赤鬼が泣いたわけ

オペラの幕が上がる。

夏から娘が参加してきたワークショップ「オペラの登場人物になろう」本番は、今日の明日の2回公演。今日は私とカミさんで観て、明日は従兄弟やお友達も見に来る。

娘は緊張してはいたが、思いのほかしっかり演技していた。表情豊か。

後で聞いたところでは本人はいくつか間違えたとのことで、明日は頑張る、と。

タイトルの英語訳が"The Tears of the Red Ogre"だったり"The Red Ogre in Tears"だったりするのはご愛敬。

一点気になったのは、最後の赤鬼の涙の解釈。解釈の問題なので別に間違いではないのだが…。

青鬼に「君が一人でいる間、君のことを忘れて村人と遊んでいた」と謝る内容なのである。そこは違和感を覚えた。

「赤鬼が村人と仲良くなる」ということが二人の計画であったことは間違いない。ただ、赤鬼の意識には、「村人と仲良くなった後」のことが抜けていた。

悪役となった青鬼といかにして親交を保つのか、保てるのか。いかにして青鬼の名誉を回復できるのか。それらすべてを村人との信頼を損なわないまま、行わなければならない。だがそこまでの深い思慮は、素直で単純な赤鬼の中にはなかった。

一方、青鬼はその点を熟考した。そして友人の願いを叶えるためにもっとも安全確実な方針を採用した。つまり、親交はしない、名誉を回復しない、という自身にはメリットのない方針である。しかもそれを確実に貫くために、赤鬼には相談なく旅に出た。これら青鬼の熟慮を指して赤鬼は「そんなにも僕のことを思ってくれるのか」とつぶやいた。

二人の計画を完遂するには、これより良い手がない。つまり、赤鬼が村人に受け入れられたいという願いは、知らぬ間に青鬼との別離を含んでしまっていたのである。

赤鬼も青鬼の手紙を読んでその思慮を理解した。そして、たぶん、うーん、とうなってしまったと思うのだ。青鬼の言う通りなのだ。彼には青鬼の名誉を回復する手立てがないのである。それどころか、名誉回復の試みでさえ、二人の計画を水泡に帰する恐れがある。だから、青鬼の言う通りにするしかない。

赤鬼は謝りたいのではなく、感謝したいのだ。同時に、それほどまで自分を大切にしてくれた友との長い別れを惜しんでいる。

というのが私の解釈なのであるが、さてどうであろうか。