イサパ・ガールの哨戒日誌/老人たちと海

カミさんが覚えたタガログ語の一つが「イサ・パ(isa pa)」即ち 「one more」。つまり「おかわり」だ。夕食時、フィリピン人ウェイタ ーに効力を発揮する。我々夫婦の間では既に動詞化しており、「イサパ する」は「おかわりする」と同義になっている。 食事を食べながらメニューを眺め、「今日のイサパ」を話し合うのが夫 婦の会話だ。23日夕食のメニューは ◆1.アボカドとツナのタプナードのシュー詰め・小野菜のサラダ添え ◆2.ベーコンと具沢山な野菜のスープ ◆3.キングサーモンのグリル アーモンド風味のバターソース ◆4.ホームメイドパン ◆5.きび砂糖のムース ◆6.コーヒー又は紅茶 このうち、イサパするものを協議した。 カミさんは1.と3.の2つ。私は2.だけ。 まったくかみ合わない。嗚呼この夫婦の食生活はどうなってしまうのだ ろうか。 21日(アカプルコ上陸前日)には、メキシカンデッキディナーと称し て、メキシコ風の料理を中心に、青天井のスポーツデッキでビュッフェ 形式の夕食だった。ビュッフェでカレーが出たので「もしかしたらイル カが現れるかも」と話していた(「2008-06-02 23:59:59 イルカとカレ ーの不思議な関係」を参照のこと)のだが、ホントにイルカは現れた。 船の後部でイルカが2頭ほど跳ねるところが目撃された。うわー、やっ ぱりイルカはカレーが好きなんだ! 学会に報告しなくては。 太平洋に入ってから、生物の目撃証言が増えてきた。これまでも他のお 客さんから「あらイルカはけっこういるわよ」なんて言われて我々夫婦 は歯がみして悔しがっていたのだが、太平洋に入ってからは、既に2度 3度とイルカを目撃している。一度はイルカの群れに船が正面から突っ 込んだところにちょうど居合わせて、10~20のイルカとすれ違う一瞬を 目撃した。 その後、食堂で食事をとっているときには、やる気のあふれるイルカが 4回ほどもジャンプを繰り返し、宙に飛び上がるのを目撃した。もしそ の様子をつぶさに知りたいという方は、名作『ぐりとぐらの海水浴』で 「イルカ・ジャンプ」の図を参照されたい。 また、24日朝には船内放送で「右舷前方、イルカが魚群を追っていま す」というアナウンスが入り、我々は「すわ一大事」とばかりにデッキ に飛び出した。ものすごい数が押し合いへし合いしている。いや嘘では ない、ものすごい数の乗客が、デジカメの撮影位置を争って押し合いへ し合いしていた。とても平均年齢68歳の集団とは思えぬ元気さである。 日本もまだまだ大丈夫だ。 問題のイルカたちも老人たちに負けぬ勢いで押し合いへし合いしてい た。海が黒くなるほどの群れ(魚群が黒いのかイルカ群が黒いのかはわ からぬ)が、海の向こうでびちゃびちゃと飛び跳ねている。イルカだけ でも20頭ほどはいる。残念ながら3分とたたずに船は魚群を横目に通過 してしまったが、まこと、ここに至ってイルカは珍しくなくなってき た。 最近はトビウオを普通に見かける。船首に立って数分間、注意深く海を 眺めていれば、小魚がまるでトンボのように銀色の羽根を広げて飛んで いく(逃げていく)のを見ることができる。20cmと跳躍できずに海に戻 るヤツもいるが、どうかすると2mも3mも悠々と飛んでいくヤツがい る。トビウオは放物線を描くものかと思っていたが、放物線ではなかっ た。まっすぐ銀の弾丸のように(しかし、やはりトンボのようにのんび りと)低く水平に飛んでいく。魚の行動とも思われぬ。 あとはウミガメやクジラを見たという証言も多々あって、カミさんはま だ見たことがないので悔しがっている。最近では警戒態勢を強め、朝晩 にデッキに出て海を哨戒するのが日課となっている。ウミガメ出ろ、ク ジラ出ろと呪文を唱えながら。煙の中からボワッとクジラが現れたら、 これはもう黒魔術を行う魔女の末裔であろう。それともカリブ海を通っ た折にブードゥーの異教にでも手を染めたのだろうか。 23日夜から船は寒流帯に突入し、海水温が6度下がった。北の海ほど豊 かだというし、今後の接近遭遇に期待大である。