囲碁講習会

知人が参加したり知人が幹事したりしている、囲碁の講習会に行ってきました。その模様をレポート。

最近、学生時代の友人を起点にしていろんな人と会う機会を得ている(ひでくんさんきぅ)のだけど、先日会った方が「今、囲碁の普及に努めている」という話をしておられた。老人方面に人気の囲碁だが集英社の人気マンガ『ヒカルの碁』のおかげで低年齢層に拡散。20代30代だけが、囲碁から取り残されているのだという。(……それとも、囲碁の方が20代30代から取り残されているのかもしれないが)

私は『ヒカルの碁』は途中まで読んだけれど、囲碁のルールはまったく無知。ただ、この囲碁の講習会に参加を決めた時に、近所の古本屋で囲碁の入門書を見つけて購入、予習しておいた。そのため、私の本日の立場は「完全な初心者」ではない。会の対象は「ルールをまったく知らない」という人だったわけだけれども。

ちなみに購入したのは石倉昇九段著『一人で強くなる囲碁入門』。わかりやすくてよかった。

私が撮影した写真はこちら。

■20051023囲碁講習会(photo)
http://www.interq.or.jp/green/shine/sth/20051023IGOworkshop/

■会場入りから

今日の会場は日本棋院。『ヒカ碁』で得た知識によれば、関西棋院と二分する囲碁団体、って話だったかな。市ヶ谷駅から徒歩1分の本部ビルへ。2階のスペースに椅子と机がずらり並んでいる。受付で参加費用2000円を払う。15時開場で、1530時からスタート。

今日は完全な初心者向けの「入門編」が25名、「初級編」が15名の予定だったんだけれども、大幅に参加者が増え、総計60名近い大所帯に。和室に人が入りきらないので椅子席に変更になったとか。

私が参加したのは「まったくルールを知らない人」対象の「入門編」。参加者同士が向かい合わせの配置で座る配置。周囲はみんな「入門編」なので、ほぼ、碁に関してまったくわからない人ばかりだと思われる。ちなみに、隣は知り合いだけど向かいは初対面の方でした。

今日の講習会では、おおよそ4人の方が講師を勤めてくださいました。

メディアへの露出も多い有名人の
梅沢由香里さん 五段( http://yukarigo.at.webry.info/
それから、幼少時に台湾から日本に来て囲碁のプロになっておられるという
王(オウ)さん 四段
◆潘(ハン)さん 初段
そしてネット囲碁サイト『石音』の創業者、
根本さん(写真右) アマ6段

これらの方々が指導してくださいました。潘さんは主に「初級編」の方を教えておられたので、私は主に梅沢さん、王さん、根本さんに教えていただいた感じ。

■ルールの説明~練習問題

まず、梅沢先生が(笑顔で優しく)ルールの説明をして下さる。

「石は升目の中に打つのではなく、交点に置く」というような基本から始めて、「囲む」ということ、「陣地を作る」ということについてなど。基礎の基礎ですな。

一通りの説明の後、プリントにある練習問題3題。1問目と2問目は1手詰めで簡単なんだけど、3問目が突然難しい3手の問題。これはちょっと厳しいかなー、という気はする。せめて回答を二択にして欲しかったか。問題文の意味からして理解できない人、多数。「にげる」とかそういった表現がすでに初心者にはわからなかったみたい。「端の2つの黒石を取るためには、上下どちらからアタリにいくのがいいでしょうか」など、かみ砕いた問題文が欲しかった。

この辺りでもう少しアタリに関する説明があった方がよかったように思う。

次に、着手禁止点に関する説明の後、練習問題3題だが、ついて来られない人がいたかも。いわゆる「眼」に関する説明なんだけれども、ちょっと説明が急ぎすぎる感じはある。

練習問題も、紙でやるより実際に石を置いて並べてみた方が実感があっていいかもしれない。配置はプリントで配っておいて、「実際この通りに並べて考えてみてください」といった感じでどうか。

■対局

九路盤(小型で初心者向けの盤)を使った「石埋め碁」を3局。終局判断を行わず、自陣をすべて石で埋めるというルール。この辺りで私の対局者はすでにかなり混乱していた模様。やはりどうしてもオセロ的な発想が抜けないようで、第1線のはさんだ石を取りそうになる。私はほとんどオセロをやったことがないので、それが幸いしたのかもしれない。

この石埋め碁のルールは「自陣を詰める」ということなんだけれど、ここで「相手の陣地に踏み込むのが無駄だ」ということをもっと強調しておいた方がいいように思う。「相手の陣地に打っても石埋めが進めば結局死に石になる」ということがわかれば、後での終局判断が楽になりそう。 カドの一目の処理を怠ったがために大逆転が起こってしまったり、あるいは、最後に残る地が2目横に並んだがために眼にならず大逆転が起こってしまったり、なんか囲碁の怖さを知る。

怖いな、これ。ちょっとした違いで死を招きなのね。

次が、置き石した状態からの碁。梅沢先生が20手ほど進めた状態の盤面を指定してくださって、その通りに並べる。その状態から打ち始めることに。私は予習したおかげで割と迷いなく打てるが、初心者は相当しんどいみたい。盤面端の「ツギ」がまだわからないので、その辺りで損をすることも多いし、アタリがかかっているのに気づかないことも多い。まぁもちろん、私も数日前までそうだったんだけども。アタリについてもう少し形をたくさん覚えてから対局にした方がいいかもしれない。

対局相手を変えてもう一戦。この相手の方は少し囲碁を知っている人らしく、打ち手が早い。なんとか辛勝。

さらに相手を変えて一戦と思ったが、次の方(Mさん)も私も疲れていて、お互い勝負を始める気力がわかず、まったりしていた。通りかかった講師の根本さんが「普段使わない脳を使うから、最初のうちは疲れますよね」と笑っておっしゃってくださったので、遠慮無く休憩(おぃ)。

Mさんが「級(≒級位・段位)ってどうやって決まるんですか」と根本さんに質問。根本さんによると、絶対的な基準はなく、対戦相手との置き石(ハンデ)の数で決まるのだそうだ。たとえば4段と3段は、ハンデの石を一個盤面に置いた状態で互角、ということ。これは初段と二段、4級と5級でも同じ。そうやって相対的に級位・段位が決まるのだそうだ。「ルール覚えたて」は30級くらいとのことなので、理論上では、私が石を30個置いた状態から勝負をしても梅沢五段には勝てない、ということになる。まぁ現実問題として、そんな数の置き石をすることは想定の範囲外だろうが。

十分に休憩して気力がわいたところでまた一勝負。Mさんは思い切りがよく、打ち手が早い。こちらもいわゆる手拍子(≒勢いで考えずに打っちゃう)というヤツになってしまう。打った後で「えーとこの後どうなるんだっけ?」みたいなことを考えていてトンチンカンだ(汗) ホントは打つ前に考えないとね。

コミ(先手側のハンデ)を計算に入れると互角の結果だったかな。うわー好敵手出現だ。

あんまり頭を使ったので疲れる。チョコレートとかで糖分補給したいな……と思いながら、他の人の対局とか眺める。梅沢五段は初心者三人を相手に、九路盤でかろやかに三面打ち。少し置き石(ハンデ)をしても余裕の体だ。まぁ梅沢五段にしてみれば、九路盤なんて、考える間もなく一目でわかっちゃうんだろうなぁ。

18時をまわった辺りで時間いっぱい。会場の都合もあるのでお開きと相成りました。アンケートが1枚配られ、それから参加者の感想などをいくつか聞いて、締め。

入門編の参加者には六路盤/九路盤兼用の盤碁石セットがプレゼントされました。碁盤は厚紙製で、表裏が六路盤と九路盤になっているもの。全面に『ヒカ碁』のイラストが描かれております。やっぱり集英社がスポンサードしてるのかな、この盤。碁石はたぶんプラスティック。

終わった後、駅前の飲み屋さんで打ち上げとなりました。お疲れ様。

囲碁の難しさ。

私が入門書を買ってから今日の講習会までに感じた、囲碁の難しさについて、書いておこうと思う。講師・主催の方々の参考になれば。

◆悪手、失着がすぐにはわからない。

囲碁では悪手、失着が「なぜ悪手なのか」が非常にわかりにくい。そのため、最初はどう打っていいのかわからない。

たとえば将棋の場合、自分の駒が取られればすぐに悪手だとわかる。つまり「ミス→ダメージ→学習」のサイクルが短い。ところが囲碁の場合、数手進めてみて初めて「ああ、さっきのは悪手だったんだ」と分かるような場合がほとんどだ。そのため、悪手を理解するまでに「数手先まで進めてみて」「ダメージを受け」「数手前を回想して悪手を認識する」といった長いサイクルが必要になる。

部分でさえそれだから、全体の方向性となるともっと長いサイクルが必要になる。優勢判断、終局の判断も、数手先が読めるようになって初めて判断できると思う。その点が、初心者にはとっつきにくい点だ。

私は自宅でフリーソフトを使って対局していたのだけれども、私が「欲張って広く打ち過ぎると後で酷い目に遭う。適度に遠慮しておいた方が結局堅実」ということを学んだのは、かなりの回数、対局してからだ。それだけ対局を重ねて始めて、初手をどの辺に打てばいいか、わかってくる。これが将棋なら、初手でそんなに悩むことなどあり得ない。序盤の選択肢はあまり多くないからだ。

この「初手をどこに打っていいかわかるまでに、対局を重ねなければならない」という自由度の高さは、初心者には厳しい壁だと思う。

◆わかる人間は感覚的に理解しているので、わからない人間にうまく伝えられない。

何を教える場合でも、感覚的に理解している人が自分の感じを相手に伝えるのは難しい。特に、囲碁は「明らか」という感覚で済まされちゃう部分が多すぎると感じた。終局判断などはまさにそれで、相手の陣地に打つのが実力者にとっては「明らかに無駄」で「終局の合意」なんだけれども、初心者にはさっぱりつかめない。囲碁を学んだ人にとっては「明らか」に無駄な一手が、初心者にとってはちっとも「明らかでない」のだ。そのため、「ついていけない」といった感じになってしまう。

「明らか」とか「なんとなく」という感覚は「説明不足」と紙一重の感もある。その辺り「なるほど!」という画期的な説明方法があれば、いいなぁ。

◆形について、詰め碁問題でもう少し時間をかけてもいいかも?

今日の講習会のように素早く対局に進むのは、「ネコを水に突き落とすと泳ぎを覚える」といったようなやり方で、それはもちろん早く上達する方法として有効なのはわかる。ただ、時間をたっぷりかけることが許されるのなら、1手から3手程度の詰め碁を延々勉強させる方が、初心者にはわかりやすいのかもしれない。アタリの形をたくさん見るとか。

まぁ、時間がかかってヤんなっちゃうかもしれないし、一長一短か。私が持っている石倉昇九段の本にも「大人に教える時は早く大きな盤に進む方が興味が増していいのでは」とあるから、その方が一般的なのかなぁ。

でも、個人的には、狭い局面での形を覚えた方が、とっつきやすい気はする。まぁそういうタイプもいるということで。

◆今日の講習内容に関して

もう少し優勢判断について時間を取った方がいいのではないかと思った。「自分の地」の見方というか。

今日私が対局した方は、明らかに不利な位置にも打ち込んできて、最初から死に石になっているような配置がよくあった。これも有力者には「明らか」だけれど、初心者にとっては「明らかでない」一手かと思う。石埋め碁を活用すれば、もう少しその辺りを説明できるかもしれない。

対局時間が少々長くて疲れた気もする。優勢判断と死に石についてもう一講設けた後、石詰め碁3局、3子ずつの置き碁で2局、くらいの時間配分でいいのではなかろうか。試合時間を長く取るよりも、もう少し基本的な部分を押さえておきたい気がする。

まぁこの記事に書いたのはいずれも私の個人的見解で、もちろん的はずれな可能性も大いにある。講習ではさまざまな制約もあるし、必ずしも私の書いたことが講習会に活かせる意見だとは思わない。「いくら手を尽くしても、全員を救うことは不可能だ」という観点に立てば、今日の講習会は十分成功だったとも言える。

一つの参考程度に。

(追記)

上記記事は2005.11.07に別blogより転載した。